旅行の添乗員に、実際の労働時間に関わらず決まった額の賃金しか支払わない「みなし労働時間制」が適用出来るかが争われた上告審で、24日、最高裁は控訴審どおり、会社の主張を退け、みなし労働時間制の適用を否定する判決を言い渡しました。
みなし労働時間制とは、労働基準法第38条の2に定められており、労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定しがたいときには、所定労働時間労働したものとみなされる制度です。
この制度ではしばしば「労働時間を算定しがたいとき」の解釈が争われます。すなわち、例えば外回りの営業職のように事業場外で勤務することが多ければ即該当するのではなく、労働時間を算定しがたいという事情があって初めて適用されることになります。
行政解釈(昭和63.1.1基発1号)では、a.業務を行うグループの中に時間管理者が含まれる場合、b.無線やポケットベル(当時は携帯電話がまだ普及していませんでした)により随時使用者の指示を受ける場合、c.訪問先や帰社時刻などにつき具体的な指示を受けてその指示どおりに業務を行い、その後事業場に戻る場合は、この要件を充たさないという判断基準が示されていました。今は携帯電話を通じて指示命令が可能ですし、営業日報などにより業務の報告を求めている会社がほとんどなのではないでしょうか。ほとんどの営業マンはみなし労働時間制に該当されないと言っても過言ではないかもしれません。
24日に出た最高裁判例も、おおむねこの行政解釈の趣旨に合った判断だったと思います。すなわち、
・本件添乗業務は,旅行日程がその日時や目的地等を明らかにして定められることによって,業務の内容があらかじめ具体的に確定されており,添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。
・ツアーの開始前には,旅行会社は,添乗員に対し,旅行会社とツアー参加者との間の契約内容等を記載したパンフレットや最終日程表及びこれに沿った手配状況を示したアイテナリーにより具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに,添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し,これらに従った業務を行うことを命じている。
・ツアーの実施中においても,会社は,添乗員に対し,携帯電話を所持して常時電源を入れておき,ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には,会社に報告して指示を受けることを求めている。
・ツアーの終了後においては,会社は添乗員に対し,前記のとおり旅程の管理等の状況を具体的に把握することができる添乗日報によって,業務の遂行の状況等の詳細かつ正確な報告を求めているところ,その報告の内容については,ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正確性を確認することができるものになっている。
(以上、判決文より抜粋し一部読みやすいように改変)
こういった事情が認められることから、「労働時間を算定しがたい」とは言えず、みなし労働時間制の適用を否定しました。
この判決は旅行の添乗員ですが、営業職を含め、現在は適用される労働者がかなり限られていると考えて良いかもしれません。この制度を当てにした労務管理を行っている所は早急に見直しが求められます。
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