初めて人を雇用する方へ

仕事が忙しくなってくると、従業員を採用し、業務を拡大したいものです。
しかし、従業員を雇い入れると、責任(給与の支払い・教育の実施)も同時に伴います。
仮に、自社の業績が急激に悪化したとしても、正社員は思いつきで解雇することはできませんし、社員の生活に対して責任を負うことになります。

「人手が足りず、仕事が忙しいから」という目前の理由だけで人を雇用するのではなく、自社の経営ビジョンや収支計画を明確にし、これから雇い入れる従業員にどのような役割を期待して仕事を任せるか、そして給与体系や待遇条件はどのようにするかを十分検討したうえで、計画的に採用活動を始めましょう。
以下、採用までの流れをみていきましょう。

1.採用する人材、人数の検討

まず、どのような雇用形態で、何人雇うのが適当なのかを検討します。

(1)正社員

≪メリット≫ 社員を雇用する経営者の立場からみたメリットとしては、採用活動の際、正社員には応募が集まりやすい。
また、長期の戦力として期待することができ、専門性の高い業務を任せることができる。
≪デメリット≫ 従業員が期待通りの業務ができなかったとしても、経営者の一存で雇用契約を終了することが難しい。
また、一般的に毎年の昇給や賞与の支給を制度として提供する必要があり、中小企業の場合、資金繰りにおける負担となる場合がある。

(2)パート、契約社員、アルバイト

≪メリット≫ 会社の経営状況や従業員の勤務状況を勘案して、雇用調整が行いやすい。
勤務時間によっては、社会保険などに加入しなくて良いため、人件費を低く抑えることができる。
≪デメリット≫ 勤務時間が短くなったり、給与支払額に制限がある場合、責任ある仕事を任せるのが難しくなる。一般的な事務作業などルーチンワークを中心とした作業に限定されてしまうケースが多い。
「配偶者の扶養の範囲内で働きたい」等の要望があるとき、長時間働いてもらえない。

 
 

2.勤務条件の検討

雇用形態(正社員、パート等)を定め、任せる仕事内容が決まったら、詳細な勤務条件を検討します。

(1)1日の勤務時間は何時から何時までか、1日何時間働いてもらうか、休憩は何分か

 原則、実働で1日8時間以内にします。実働時間が6時間を超えると45分、8時間を超えると60分の休憩が必要です。

(2)1週間に何日働いてもらうか

 週1日以上または4週4日以上の休日が必要です。また1日の勤務時間が長い場合は、1週間で40時間(特定事業所は44時間)以内になるように注意します。
 場合によっては変形労働時間制の導入を検討します。

(3)雇用保険に加入が必要か

 週20時間以上で雇用保険に加入、社会保険適用事業所は中小企業の場合、正社員の4分の3以上の勤務時間で社会保険に加入となります。

(4)月給または時給の額を決めます(最低賃金に注意)

 交通費を支給するか、その他諸手当を支給するか。賞与や退職金を払うか、昇給制度を入れるかを検討します。

(5)給与の締め日・支払日を決めます

 時間外手当を計算することも考えると、締め日から支払日までは最低でも10日以上空けることをお勧めします。末日〆→翌月10日払いなど

(6)試用期間を設けるか。設けるなら何か月にするか

 決まりはありませんが、一般的に3ヶ月~6ヶ月が多いです。

(7)退職する場合は何日前に申し出るルールにするか

 決まりはありませんが、1ヶ月程度が多いです。あまりに前すぎると無効になります。

(8)契約期間を設ける場合は、何か月(何年)にするか

 原則3年以内で設定します。また、契約を更新する場合の条件を決めます。

勤務条件がここまで決まったら、従業員に交付するつもりで雇用契約書を作成してみましょう。
  → 雇用契約書のひな型はこちら

雇用契約書に書ききれない「職場のルール」は、「就業規則」にまとめます。
就業規則は従業員が10人になるまでは法律的には不要ですが、「どういう従業員を求めるか明確にすること」と、「従業員が入ったあとのトラブル防止」のため、1人でも雇い入れたら、ルールブックである就業規則の整備をお勧めします。
 
 

3.募集方法

雇用形態と勤務条件が決まったら、いよいよ従業員の募集に入ります。
求人方法は、次のようなものがあります。

(1)知人、友人に紹介を依頼する

≪メリット≫ あらかじめ能力や働きぶりがわかっているため信頼がおける。
≪デメリット≫ お互いに甘えが出たり、ルーズになってしまう場合がある。もともと友人関係であった場合は、仕事を通じ関係がぎくしゃくする場合もある。

(2)ハローワークに求人を申し込む

≪メリット≫ 申込費用が無料である。雇用に関する助成金がもらえる可能性がある。
≪デメリット≫ 優秀な人材が集まりにくいという声が多い。

(3)求人情報誌や求人サイトに広告を出す

≪メリット≫ 情報誌やインターネット等によって、ハローワークに通っていない層にも幅広く訴求できる。
≪デメリット≫ 費用がかかる。掲載期間が短くなるため、想定の応募数が見込めない場合がある。

(4)人材紹介会社を活用する

≪メリット≫ 求める経験やスキルに見合った人材を雇用できる可能性が高まる。
≪デメリット≫ 紹介会社に支払う成功報酬が高額になることがある。

 
 

4.面接

<面接前>

応募者の第一印象やなんとなく感じが良さそうという雰囲気だけを頼りに決めるのではなく、「自社が求める人材かどうか(=自社の経営理念に共感できる人)」を見極める必要があります。
そのためにも、
 ①自社の経営理念
 ②自社はどういう人材像を求めるのか
を明確にしておくことが重要です。
どんなに優秀そうでも、自社が求める人材でなければ採用してもミスマッチを招きます。

<面接時>

面接イメージ面接の際は、応募者が「はい」、「いいえ」で答えてしまうような質問ではなく、応募者に「話させる」質問を行うことが重要です。応募者が考えて答えるような質問をすることで、その人の人間性を感じ、自分の求めている人物像に近いかどうかを判断します。

また、求人媒体に記載した仕事の内容、給与、勤務日数・時間、休暇などの勤務条件を、あらためて明確に説明します。勤務条件があやふやだと入社後に必ずトラブルになります。

 面接は1回で終わらせる必要はありません。中小企業でも、二度、三度と行うこともあります。場合によっては、インターンシップ(職業体験)をしてもらい、適正を判断する方法もあります。

インターンシップはお互いにミスマッチ防止の効果がありますが、以下の点に注意する必要があります。

○「労働の強制」にならないこと
      あくまで「体験」です。時間を拘束し仕事を指示すると、雇用を開始しているとみなされます。

○雇用関係の助成金の受給条件を確認
      雇用関係の助成金を考えている場合、雇用開始前にインターンシップをしていると不支給になるものがあります。

 
 

5.採用(労働契約の締結)

 採用が決定したら、従業員と雇用契約書を取り交わしましょう。
  → 雇用契約書のひな型はこちら

「雇用契約書」は労働基準法で、勤務時間、休日、給与、契約期間、職種、勤務場所、退職に関する事項等を記載することが義務付けられています。入社後のトラブル防止のためにも、従業員に十分説明して締結しましょう。

その他、従業員の採用時には以下の書類をもらっておきます。

誓約書 就業規則に定めた勤務ルールの中でも、守秘義務や競業防止義務など特に重要度の高いルールは、あらためて誓約書にサインをしてもらいます。
  → 誓約書のひな型はこちら
身元保証書 労働者が会社に損害を与えることもあり、保証人をつけてもらうことは重要です。
  → 身元保証書のひな型はこちら
健康診断書 会社には労働者の雇入れ時に健康診断を実施する義務があります。
本人が診断書を提出すればその義務を履行したことになります。
勤務できる状態かどうかを判断する意味もあります。
前職の源泉徴収票 年末調整に必要
雇用保険被保険者証 雇用保険取得手続に必要
基礎年金番号 社会保険取得手続に必要
扶養控除申告書 源泉所得税の計算のため必要
通勤経路申告書 通勤手当を支給する場合、経済的に合理的な経路で通勤するかどうかの確認に必要です。
  → 通勤経路申告書のひな型はこちら
住民票 稀に、履歴書に虚偽の住所を書いて入社する人もいるため。
マイナンバー 各種行政手続きのため、現在は必須となっています。

 
 

従業員の雇用にあたってのワンポイントアドバイス

☆雇用関係の助成金の情報を得ておく☆

雇用保険適用事業所になることを条件に、厚生労働省から様々な助成金が出ています。
どんな雇用形態の人をどんな勤務条件で雇えば出るのか、助成金の種類によって様々ですので、採用活動に入る前に情報を頭に入れておくと良いと思います。

例えばよく使われる助成金として、以下のようなものがあります

○トライアル雇用奨励金
ハローワークで一定の就職困難者を雇入れ、最大3ヶ月間のトライアル雇用(試行雇用)を実施すると助成される。

○特定求職者雇用開発助成金
ハローワークで高齢者・障害者・母子家庭の母等を原則無期雇用したときに助成される。

○キャリアアップ助成金
当該職種の経験が少ない人を非正規雇用(契約社員やパートなど)で雇ったとき、その人の職業キャリアを上げるための職場訓練を実施したときに助成される。社長自身が訓練の講師になることも出来ます)

 
☆人事評価制度を作る☆

一般的に中小企業は大企業に比べ、優秀な人材を取りにくいです。
2014年頃から始まった「売り手市場」で会社を選べるようになり、安定志向も加わり大企業への応募傾向が加速しています。

求職者が中小企業を避けたがる理由の一つに、給与の決め方が社長の一存で決められ、本当に上がっていくのか不安だというのもあります。社長に気に入られなければ、いきなり給与が下げられるかもしれないというのは、応募する側にとっては恐怖です。

中小企業が大企業に対抗して良い人材を獲得するには、「社長個人の魅力で引きつける(=経営理念を明確にする)」ことと、「公正な人事評価制度を設ける」ことが最も重要です。

従業員が入ってきたら、給与が適正かどうかを常に検証していかなければなりません。そのためには、まず経営者が求める「従業員の人物像」を明確にする必要があります。実際には従業員が数人以内の会社は、社長の感覚で何となく給与額を決めている会社がほとんどですが、そのような会社では従業員は次のような行動に陥りがちです。

・どうしたら給与が上がるのか明確にわからないので、頑張る方向がズレてくる。
・目標がわからないのでやる気が落ちてくる。
・とにかく社長の機嫌を損ねないことや、社長に気に入られることばかり考える。

 社長の一存で決めていたら従業員がこう思うのは当然ですよね。例えば社長としてはミスはちゃんと報告して欲しいと思うでしょうが、社長の機嫌を損ねたくない従業員はミスを隠したがります。よってミスをちゃんと報告したら評価するような評価制度を定めておくことが大事なのです。