2026年3月18日の参議院予算委員会で、通勤手当が社会保険料の算定対象となっている問題が取り上げられました。
この問題は以前から指摘されていますが、今回の質疑の中で、高市早苗総理大臣は、制度の見直しについて慎重な姿勢を示しました。
総理はその理由として、次のように答弁しています。
・健康保険については、通勤手当を対象外とすると保険料総額が減るため、制度を維持するには保険料率の引き上げが必要になる
・厚生年金についても、保険料総額が減れば将来の年金給付水準の低下につながる
つまり、通勤手当を社会保険料の対象から外すと、制度全体としての収入が減るため、別の形で負担増になる可能性があるという説明です。
しかし、この問題については、国民の実感として違和感を覚える点も少なくありません。
今回は、通勤手当を社会保険料の対象とする現在の制度について、改めて整理してみたいと思います。
通勤手当は税金では非課税
まず整理しておきたいのは、税金と社会保険の扱いの違いです。
通勤手当は所得税法上、実費弁償的な性格を有するものとされ、一定額まで非課税となっています。
つまり税制上は、「収入ではなく必要経費に近いもの」という扱いです。
ところが社会保険では、通勤手当は報酬(給与)として保険料の算定対象となっています。このため、
税金 → 非課税
社会保険 → 保険料の対象
という分かりにくい制度になっています。
国民の感覚では「実質的に税金」
社会保険は制度上は保険ですが、次の特徴があります。
・加入は事実上強制
・所得に応じて徴収
・不払いは認められない
こうした性質から、多くの人にとっては社会保険料は実質的に税金に近い負担と感じられています。
そうである以上、税と社会保険で扱いが違う制度は非常に分かりにくいと言えるでしょう。
国民に負担を求める政策ほど、シンプルで理解しやすい制度設計が求められるはずです。
通勤距離による負担の不公平
通勤手当を社会保険料の対象とする制度には、もう一つの問題があります。
それは、通勤距離による負担の不公平です。
例えば、会社の近くに住む人と遠距離から通勤する人では、通勤手当の金額が大きく異なります。
しかし通勤手当は、生活費ではなく単なる交通費です。
にもかかわらず社会保険料は遠距離通勤者ほど高くなるという構造になります。
これは実質的に通勤距離によって社会保険料負担が変わるということを意味します。
税金であれば、このような課税は公平性の観点から問題視される可能性が高いでしょう。
企業側にもゆがみが生じる
通勤手当が社会保険料の対象になることで、企業側にも影響があります。
例えば、会社負担の社会保険料が増える、通勤手当を抑えるインセンティブが生まれる、遠距離の人の採用を控えるといった問題です。
実際には、テレワーク、地方からの通勤、転居を伴う採用など、柔軟な働き方が広がる中で、通勤費用の扱いが雇用政策の足かせに可能性もあります。
制度のわかりにくさ
そもそも日本の社会保険制度は、標準報酬月額、等級区分、各種手当の扱いなどが非常に複雑です。
その中で「税では非課税なのに社会保険では対象」というルールは、労働者、企業、実務担当者のいずれにとっても理解しづらい制度です。
制度は複雑であるほど不信感や誤解を生みやすいものです。
慎重論への疑問
政府が示す慎重論には、一定の合理性があります。
確かに、保険料収入が減る、制度維持のために別の負担が必要という問題は無視できません。
しかしその一方で、制度の分かりやすさや公平性も重要な政策目標のはずです。
また、通勤手当を対象外にした場合でも、保険料率の微調整や給付設計の見直しなど、制度全体の中で調整する余地はあるはずです。
現在の制度を維持する理由として、保険料収入が減るからという説明だけでは、国民の理解を得るのは難しいのではないでしょうか。
通勤手当は本来、労働の対価ではなく必要経費です。
税制でもそのように扱われています。
であれば、社会保険でも同じ整理にする方が制度として自然ではないでしょうか。
社会保険制度は国民全体の信頼によって支えられています。
だからこそ、わかりやすく公平な制度であることが、これまで以上に重要になっているように思います。
通勤手当の扱いは小さな問題のようでいて、社会保険制度の設計思想そのものを問い直すテーマなのかもしれません。






