最近、SNS広告等で「退職前に知っておきたい」「退職給付金を受け取れる可能性があります」といった広告を見かけることが増えました。

いわゆる「退職サポート」「退職前アドバイス」などと呼ばれるサービスです。

広告を見ると、「数十万円〜数百万円受け取れる可能性」「退職後も生活費を確保できる」「知らないと損をする」など、非常に魅力的に見える内容が並んでいます。

ただ、ここで一度冷静に整理しておきたいのは、

「退職給付金」という公的制度は存在しない

という点です。

 

実際は既存制度をまとめて呼んでいるケースが多い

こうしたサービスで案内されている内容を見ると、実際には、

・傷病手当金

・雇用保険の基本手当(失業給付)

・再就職手当

など、既存の公的制度をまとめて説明しているケースが多いようです。

失業給付や再就職手当については、多くの方がイメージしやすいと思います。

一方で、特に注意が必要なのが、傷病手当金です。

 

傷病手当金は「退職支援制度」ではない

傷病手当金は、健康保険の制度であり、病気やケガにより働くことができず、療養が必要な場合に生活保障として支給されるものです。

つまり本来は、本当に労務不能な状態であるとの医師による療養判断が前提となっています。

単に、「会社を辞めたい」「仕事がつらい」「人間関係がストレス」というだけで当然に支給されるものではありません。

 

“診断書があればOK”ではない

近年は、メンタル不調に関する認知も広がり、適応障害や抑うつ状態などで休職・退職に至るケースも増えています。

もちろん、本当に療養が必要な方が制度を利用することは非常に重要です。

一方で、

「退職したい」

「心療内科を受診」

「診断書を取得」

「傷病手当金を受給」

 

という流れだけが強調されると、制度の趣旨から外れてしまう危険性もあります。

こうした流れを“スキーム化”して過度に広告しているように見えるサービスもあり、そこはかなりグレーな部分があります。

傷病手当金は、医師の診断、会社の証明、健康保険側(協会けんぽや健康保険組合など)の審査を経て支給される制度であり、診断書さえあれば自動的にもらえるものではありません。

 

会社側も“メンタル対応”が重要に

こうしたサービスが増える背景には、メンタル不調者の増加や職場ストレス、退職を言い出しにくい環境など、企業側の課題もあります。

特に最近は、退職代行会社のように“会社と直接話さず辞めたい”というニーズ自体が増えています。

だからこそ企業としては、メンタル不調者への対応や相談しやすい環境づくり、適切な休職制度整備、管理職教育を進めていくことが重要です。

 

制度は「本当に必要な人」のためにある

傷病手当金は、本当に療養が必要な方を支えるための大切な制度です。

その一方で、

「もらえるお金」

「知らないと損」

という側面ばかりが強調されると、制度本来の趣旨が見えにくくなってしまいます。

本来労務不能とまで言えない人たちが傷病手当金をもらっているとしたら、その負担は他の多くの国民が担っているのだという現実を、利用する労働者も、サービスを提供する業者も、また心療内科の医師も認識しなければなりません。

 国民が負担するお金で成り立つ公的保険制度。制度の本来目的を理解したうえで利用・対応することが、今後ますます重要になるのではないでしょうか。