岸田総理が昨日新たな経済対策を発表し、パート労働者などが年収106万円を超えると社会保険へ強制加入となり、実質手取り収入が減るいわゆる「106万円の壁」対策として、雇い主の事業者に働く人1人あたり50万円を支給する助成金の創設を表明しました。また、年収130万円を超えた人が社会保険の扶養から外れ自ら保険料を負担することとなる「130万円の壁」については、「次期年金制度改革を社会保障審議会で検討中だ」と述べるにとどまりましたが、一時的に年収が130万円を超えても連続して2年間は配偶者の扶養に入ることが出来るようにする方向です。この「年収の壁支援パッケージ」は9月25日の週内にまとめ、10月から実施すると述べました。

年収の壁とは、その金額を超えると税金や社会保険料の負担が増えるため勤務を抑制しようとする金額であり、いくつかの壁が存在します。ここでは代表的な3つの壁「103万の壁」「106万の壁」「130万の壁」を解説します。

その前に、「扶養」という言葉の正しい認識が必要です。扶養と一言でいっても「所得税上の扶養」と「社会保険の扶養」があり、実務上もよく質問を受けるところですが、混同している人が多いです。多いというかほとんどと言って良いかもしれません。この2つは「たまたま同じ扶養という言葉を使っているが全く別のもの」と理解した方が良いと思います。それ程、金額の数え方からして全く異なるのです。

「103万の壁」は所得税上の扶養の話で、「106万の壁」「130万の壁」は社会保険の扶養の話です。

 

①103万の壁

パート労働者等で給与収入がある人は、年収が103万円を超えると一般的に所得税がかかります。所得税がかかるということは、当然手取り収入が減ります。

またパート労働者に、配偶者など「扶養してくれる家族」がいる場合、パート労働者の年収が103万以下だとその家族の所得税の計算にあたり「扶養控除(配偶者控除)」というものが受けられ、税額が安くなるのです。

なおここでいう「103万」の計算には、非課税通勤費は入りません。

また、103万の計算は「1月~12月の収入」を見ます。例えば年の前半に多く働いたとしても、後半少なくて結果的に103万以下におさまれば良いです。パート労働者が毎年11月~12月頃になると何とか103万以下におさえようと勤務調整をしたがるのが多くの会社で年末の風物詩になっていますが、こういう理由から来るものです。

 

②106万の壁

103万の壁の話とは全く異なり、社会保険の話です。しかも原則101人以上の従業員数の企業で働く人の話です。

現在、パート労働者が以下の5つの要件を全て満たす場合には、社会保険の加入が義務付けられます

● 勤務先の従業員数が101名以上であること
● 週の所定労働時間が20時間以上であること
● 月額賃金が8万8,000円以上(年間約106万円)であること
● 2ヶ月を超える勤務の見込みがあること
● 学生ではないこと

「106万の壁」とは上記5要件の一つである「月額賃金が8万8,000円以上」から来ています。なので正確には106万円を超えるだけが社会保険の加入要件ではないのです。

社会保険に加入すると、当然自分の給与から社会保険料が天引きされ手取りが減ります。たとえ家族の社会保険の扶養範囲内である年収130万未満であったとしても、上記5要件に当てはまって自ら社会保険に加入となると、扶養から外れなければなりません。

現在は「101人以上」の企業のみが対象企業で、100人以下の企業で働いているパート労働者は従来どおりの「通常の労働者の4分の3以上」の勤務時間が社会保険加入基準となっていますので、106万の壁は気にする必要がないです。(任意で加入している会社は別ですが)

この106万とは、所得税上の扶養の話である103万の壁とは異なり、常に月額賃金が8万8,000円以上である必要があります。1月~12月の間で結果的に106万未満に収まれば良い訳ではありません。通勤手当や家族手当、残業代は含めません。

※2024年10月からは「101人以上の企業」→「51人以上の企業」に引き下がります。

 

③130万の壁

106万の壁と同じく社会保険の話なのですが、「家族の社会保険の扶養に入れるボーダーライン」が年収130万未満だということです。

もし扶養に入ってる家族が配偶者だった場合、健康保険だけでなく、年齢要件はありますが国民年金第3号保険者にもなるので、メリットは大きいです。(国民年金保険料を払わなくても将来の年金がもらえる期間になるのです)

年収が130万円以上だと家族の扶養から外れ、自分で社会保険や国保、国民年金に入らなければならないため社会保険料が大きくかかります。

結果的にその年130万未満に収まったかどうかではなく、月額賃金が130万÷12ヶ月=10万8,333円までである必要があります。(但し臨時的に1ヶ月だけ超えただけなら即取り消されないケースもあり、保険者に確認が必要です。官邸が今週中にまとめるパッケージでも、この臨時的な超過というのがどこまでかを具体的に定めるものと思われます)

この130万には、通勤手当や残業手当等も含まれます。基本的に額面金額(給与総額)で見るので要注意です。①②とも異なるのです。

また、法律の話ではありませんが、多くの会社で「家族手当」「扶養手当」という名目の手当が出ている場合、給与規程で支給基準が「家族が社会保険上の扶養に入っていること」であるケースが多いので、多くの人にとって切実な問題となります。

同じ「扶養」といっても所得税上の扶養と社会保険上の扶養があること、さらに同じ社会保険の話である106万の壁と130万の壁にも金額の含め方など多くの違いがあることから、ほとんどの人が正確に把握しきれていない複雑怪奇な扶養制度。これに助成金制度や2年限定の壁超えなどが加わる訳ですから、専門家であっても訳のわからない状態になることは必至です。