定年後の再雇用で正社員時代と同じ仕事をしているのに、賃金が減ったのは違法だとして、横浜市の運送会社で働くトラック運転手の男性3人が、正社員との賃金の差額分計約415万円の支払いなどを求めた訴訟で、東京地裁が全額の支払いを命じる判決を言い渡しました。佐々木宗啓裁判長は「正社員と同じ業務をさせながら賃金水準だけを下げるのは不合理で、労働契約法違反だ」と述べました。このニュースは大きく扱われました。

 

 なぜなら、定年後に再雇用する場合、労働条件を一から見直す会社が非常に多く、それがダメだと多くの企業に影響を与える恐れがあるからです。

 

 高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用確保措置を企業に求めています。定年を65歳以上に引き上げたり廃止するという方法もありますが、負担を嫌がる企業は定年を60歳のままにして、本人が希望したら「再雇用」という形で契約を結ぶという方法を取っている所が多いです。法理論的には、定年年齢になったらいったん雇用契約が終了するので、その後「再入社」するなら労働条件(賃金や労働時間等)をまた一から労使で話し合って決めることは可能です。再雇用させたくない労働者を切るために、あえて低い労働条件を提示して契約に至らせないという手法を取ることも可能になってきます。

 

 しかし一方で、労働契約法第20条では、正社員などの無期雇用社員と有期雇用社員の間で「不合理な差別をする」ことを禁じています。これは、仕事の内容や責任の度合い、配転の可能性などが同じなのに、有期雇用社員であるという理由だけで賃金などの労働条件を差別するのはおかしいという考えからです。

 

 この事例では、定年前後で仕事の内容や責任の度合い等が全く同じだったため、賃金だけ下げるのは不合理で、労働契約法20条で定める差別的な取扱いに当たるとされました。

 

 逆に言うと、仕事の内容や責任の度合い、配転の可能性などが違えば、それは不合理な差別とはされません。その場合、正社員よりも賃金を下げるのであれば、なぜ低いのか、企業はちゃんと説明する必要が出てきます。定年後再雇用時に労働条件を見直すときには、単に雇用契約書1枚を交わすだけでなく、具体的な正社員との違いを目に見える形で示し、かつ本人に理解してもらう必要があります。雇用契約書で書ききれないのなら嘱託社員規程のようなものを作って、嘱託社員の職責を細かく規定する必要も出てくるでしょう。

 

 そういった意味で、今回の判決により、定年再雇用時に賃金を下げるのが全てダメになるという訳ではないですが、賃金を下げることとその下げ具合が合理的なものであることの説明責任をより企業に求めることになるという意味で、企業に与える影響は出てくるでしょう。定年をまだ60歳にしている企業は、定年年齢に到達した社員に対し「高年齢者雇用安定法」と「労働契約法20条」の両方を睨んで対応しなければならないと覚えておく必要があるでしょう。

 

 


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