先日、厚生労働省より、長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果というものが公表されました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000148739.html

 これによると、昨年4月から9月の間に、1ヶ月あたり80時間を超える残業が行われた疑いのある事業場や、長時間労働による過労死などに関する労災請求があった10,059の事業場に対し監督指導を実施し、43.9%に当たる4,416事業場で「違法な時間外労働」を確認したとのことです。

 一昨年より労働局に「かとく」と呼ばれる過重労働対策専門チームが出来て、名の知れた企業に対し書類送検といった厳しい対応をしたことがニュースになりましたが、折しも昨年は電通事件も起き、世間の長時間労働に対する見方は厳しくなっています。こうした世間の声を背景に、今後も益々行政による取締りが強化されるものと予想されます。

Q 違法な時間外労働と言いますが、何時間を超えると違法なのでしょうか?

A 具体的な時間数が決められている訳ではなく、「36協定」が問題になります。

 この厚生労働省の資料によれば、「違法な時間外労働」というのは、
①36協定なく時間外労働を行わせていたもの
②36協定で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせていたもの
と書かれています。

 法定労働時間は原則1日8時間、1週40時間で、これは労働基準法32条に書かれています。しかし労使が時間外労働に関する協定を結び行政官庁に届出れば、その協定で定められた時間の範囲内ならば時間外労働を行わせても刑罰が免除されるという扱いになっています(この免罰効果が36条に書かれているので36協定と呼ばれています)。
 すなわち36協定が締結・届出されていなければ、或いは締結されていても協定を超える時間外労働が行われていたら、免罰効果が無くなり32条違反となります。これが違法な時間外労働の法的根拠です。

 協定で定めた限度時間を超えたら違法となると、じゃあ一体何時間で締結すれば良いのかということが問題になります。36協定で定められる時間外労働の上限は、例えば1ヶ月だと45時間以内という基準が決められていますので、基準ギリギリいっぱいの45時間で出している事業所が多いようです。しかしとてもじゃないが繁忙期はこんなものじゃおさまらないのでしたら、特別条項といって、年6回を超えない範囲で45時間を超える時間外労働を認める特別な条項を協定に入れることも出来ます。
 少なめに協定を結んで実際オーバーしていたら違法になる訳ですから、じゃあ多めに結んでおいた方が良いんじゃないかと思うかもしれません。特別条項には上限は特に決められていないので何時間でも労使が合意すれば締結できます。ただし過労死基準と言われる月80時間を超える協定を出すと、当然「この会社はずいぶん長いな」と目をつけられるので、監督指導の対象になる可能性が高まるという訳です。
(ちなみに一昨年は月100時間超の疑いの事業場が監督指導の対象でしたが、昨年は80時間に引き下げられました)

 小規模企業などでは、「こんな紙1枚出すことに何の意味があるの?」とあまり重要視していない所も見受けられますが、労基による調査でも36協定の有無というのは重点調査項目になっており、36協定の有無と適正な運用というのは企業の大小を問わずとても重要視されています。

 なお私見ですが、今後は「労働者代表が適切に選出されているか」もクローズアップされていくのではないかと考えています。小さい会社などでは、社長が事務の人あたりを呼んできて「おーい、君、ここにハンコ押しといて」という所が結構あるのではないかと思います。労働者代表の選出はあくまでも労働者の中で話し合って自主的に選んでもらう…ということになっているので、他の従業員が「うちに36協定なんてありましたっけ?」的なことになると、協定が無効になり32条違反で是正勧告ということになるかもしれません。

 そこまでガチガチにやらなきゃいけないのか、面倒だなぁと思うかもしれませんが、社会的に残業に対する見方が厳しくなってきたのは時代の流れだと思います。企業を守るためにも、長時間労働を根本的に減らしていくことが一番ですが、36協定の適切な締結から始めていかれると良いと思います。

※なお、現在政府が時間外労働の上限を定める労働基準法改正を検討しています。
これが通れば、違法な時間外労働の時間数が初めて具体的に決まることになりますので、議論の行方に注目です。

 

(この原稿は私がMIRAI相互創造推進協会のブログに投稿させて頂いたものを一部手直ししたものです)


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