女優の清水富美加さんが突然幸福の科学に出家し、芸能界を引退すると発表したことが大きな話題として報じられています。
清水さんが芸能界を辞めて出家すること自体は本人の自由であり特に異論は聞かれませんが、その辞め方が突然すぎて、事務所との契約期間の途中でもあり、CM、レギュラー番組、映画など多くの仕事に多大な影響が出ることが、社会人として勝手すぎる、辞めるにしても迷惑を掛けない辞め方をしなければならないなどといった批判の声が多く上がっています。
こうした報道を見ていると、私が労働相談でよく受ける「会社を辞めたいのに辞めさせてくれない」という相談を思い出します(清水さんは労働契約ではないので清水さんの場合とは別問題ですが)。
数年前までは会社に解雇されたという相談が多かったのが、ここ2~3年はその逆パターンである「辞めさせてくれない」という相談が多くなってきた気がします。正直、とても多いです。
法的には対応は意外と簡単で、退職の意思表示が人事権者に伝われば、雇用期間の定めのない契約の場合原則2週間後に雇用契約は解除されます。会社が承認したかどうかは関係ありません。よって「退職届を書いて渡してきてください。受け取ってもらえなくても目の前に置いて帰ってきてください」助言としてはこれだけです。
しかし相談に来る労働者の方にとっては、そんな簡単な話ではありません。辞めさせないという会社の場合、多くは辞めさせないためにあらゆる手段を取ってきます。「お前が急に辞めることで損害が生じるから損害賠償を請求する」とか「お前の家族に会いにいく」などの脅し文句だとか、18時の終業時刻に退職したいと伝えたらその後夜中の3時まで社内に拘束されて飲まず食わずで説得されたとか、これらは実際にあった話です。そうなると退職を伝えることが怖くなって、結局会社に残ってしまう。しかし辞めたいと思っている人は、パワハラだったり長時間労働だったり人間関係に何らかの問題があって辞めたがっている人が多いので、我慢をして続けていると徐々にストレスが蓄積されてうつや精神病に陥ってしまう。こうなるともう手遅れで、辞めた後に再就職も出来ずに人生が大きく狂ってしまいます。
私は、本当に相談者の人が追い込まれていれば、退職届を書留で送りつけるといったアドバイスをすることもあります。有休がもし残っていれば残期間は全て有休消化にしてしまえば、もう出社することなく辞めていくことだって出来ます。社会人として良くないことはわかっています。本当はちゃんと最後に目を見て「お世話になりました」と挨拶して辞めていくべきでしょう。でも「もう怖いんです。社長と二人きりになると動悸が激しくなって震えてしまうんです」と目の前で号泣している人に、「手順をちゃんと踏みましょう」などととても言えません。
そもそも労働者の人がこんなに追い詰められる程に、社内で何があったのでしょう? そしてこれほど辞めたがっている人を無理矢理残しておいて、本当に大丈夫なのでしょうか? 毎日毎日憂鬱な表情で仕事をされて、職場の士気にも影響するのではないでしょうか? 経営側の視点から見ると、辞めたがっている人を残しておくことは何のメリットもなく、リスクしかありません。そういったことも考えられないなら、労働者から相談を受ける側としてはもう一方的な手段を取るしかないんじゃないかと思ってしまいます。
「労働者がウソを言ってるかもしれないじゃないか」 そうかもしれません。本当はそこまで追い込まれておらず、ただラクして辞める方法を探しているだけかもしれません。でも、もしそういう人だったら、その人はこれからの人生ずっと苦労していくことになるでしょう。入る会社入る会社、ちょっとでも不満があればラクで一方的な辞め方を続けていって、気付いたら自分に何も残らずいい歳になってしまった…ということになるでしょう。その人生の苦労は、その人自身が背負っていくべき責任です。
清水さんも「意に反する仕事を強要されてギリギリの精神状態だった」とも言われています。真実はどうなのかわかりませんが、時には社会のルールや手順よりも優先される、人命や健康というものがあるのではないかと思います。
※この投稿はMIRAI相互創造推進協会のブログに掲載させて頂いたものです。