先日、弊所の顧問先企業から「退職代行業者と名乗るところから電話が来た」と相談を受けました。

 

 聞くと、採用してまだ1週間くらいの社員が、ある日無断で欠勤したと思ったら、その日にその業者から電話がかかってきたということです。

 

 その前の日までは何のトラブルも無く、本人も「頑張ります!」という感じで働いてくれてたので、突然の展開に驚いたそうです。(最初は通勤中に事故に巻き込まれたのかと心配したそうです)

 

 この「退職代行業者」。私はその時はじめて知ったのですが、その何日か後にネットニュースで「退職代行業者が流行っている」というのが出ていました。その記事の中に出てくる「1回5万円で退職を代行」という業者が、まさに弊所の顧問先にかけてきた会社でした。

 

 退職代行と聞いて、まず思うのが「法的に問題ないのか?」ということでしょう。

 

 弁護士法72条に「非弁行為の禁止」というのがあります。弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事件を取扱ってはならないというものです。

この条文の細かな解釈は複雑なものがありますので省略しますが、ざっくり説明すると「交渉」に関わる場合は弁護士しか出来ないが、単に退職の意思を本人に代わって「伝達」するだけなら業者でも出来ると考えられるようです。

 

 恐らくこの業者も、弁護士を顧問につけているようですし、単に「伝達」をするというスタンスに徹し、「交渉」が必要になったら弁護士と委任契約をしてもらい、法的に問題ないようにはしているのでしょう。

 

(逆に言うと「交渉」が必要な問題を業者が言って来たら、相手にしてはいけません。もっとも考えられるのが「今日にでも辞めさせてくれないか」と退職日を交渉してくるケース。ほかにも「未使用の有休を買い取って欲しい」との要望だとか、本人が「未払い残業がある」と主張しているケースなど。この場合は「本人と直接か、委任を受けている弁護士としか話せません」と一蹴して構いません)

 

 さて、業者が退職の「伝達」に徹している場合はその申出を受けるしかなさそうですが、それでもふざけるな!と思う経営者様も多いのではないでしょうか。

 

 ふざけるな!と思う理由としては、大きく3つあるのではないかと思います。

 

①そんなことでこれからの人生いいのか、という「本人の今後を憂いての」憤り

 けじめも自分で付けられない人が、ラクを覚えてしまい、まともな社会人にならないのは明白でしょう。ただ、そこは経営者さんは気にしても仕方ありません。「まともじゃない人が自分から辞めてくれて助かった」と思うべきです。そんな人がずっと会社にいる経営リスクの方が大きいです。

 

②「裏切られた」との思い

 これは本当に腹が立ちますよね。でも、そんなことをする人だったのです。そんな人を入れてしまったのは経営者様だということです。むしろこの失敗経験により、経営者さんの「人を見る目」は高まったはずです。

 

③引継ぎなく急に辞めていったことの損害

 上の2つは気持ちの問題ですが、これは大きな問題です。就業規則で多くの会社が「退職は1ヶ月前までに言うこと」とのルールを定め、民法でも「最短でも14日前までに言うこと」と規定しているのは、即日退社では会社に損害が生じる可能性が高いからです。

 しかし退職代行業者を使うほどですから、本人はもう出社しようとしないでしょう。残りの日は欠勤か有休消化にして事実上の即日退社にしてくる可能性が高いです。

 

 これは小規模企業の場合は、経営にも関わる問題です。経営者としては、経営リスクには「予防」と「対処」をしっかり行うことが必要です。

 

 まず就業規則で以下のルールを定めましょう。

 

「退職を希望する場合は、業務の引継ぎの必要や本人確認のため、従業員本人が社長または人事部長に対して、直接退職届を手渡しすることで伝えること」

 

「退職日から遡って14日間は業務の引継ぎのため現実に就労しなければならない。未使用の有給休暇がある場合は買取の相談に応ずる」

 

「前各号に違反した場合は就業規則違反で懲戒解雇扱いとし、会社に損害を与えた場合はその賠償を請求する。」

 

 就業規則の規定は、法律に違反する場合はもちろん社会通念上合理的でないものは無効とされますが、業務の引き継ぎのため、或いは間違いなく本人からの申出であるとの確認のためという理由は十分合理的と考えられます。

 

 現実に損害が発生したら、堂々と請求すればよいと思います。現実に発生した損害を請求する権利はもちろんあります。

 

 

まとめますと、

・どうしても退職したいという人を無理に引き留めることは出来ませんし、無理に引き留めることで生じるリスクの方が大きいです。

・ただし即日退社に伴うリスクは経営者として予防しておかなければなりません。就業規則をしっかり作りましょう。

・それでも違反をした人には就業規則違反と損害賠償請求を検討します。

 

 

 なお急に辞められても損害など一切ありませんよーという業種の会社でしたら、全然即日退社を許可してあげれば良いと思います。意味も無く引き留めておいても他の頑張ってる従業員さんに悪影響が出てきます。従業員の皆さんの生活を支えている経営者としては、「何が一番会社のため、ひいては頑張ってる従業員のためになるか」を考え、合理的な判断をされることをお勧めします。