労働基準監督官を主人公にしたドラマ「ダンダリン」の第4回が昨日ありましたね。

 昨日は、採用内定取消しがテーマでした。

 

 採用の内定をもらっていた学生の真田さん(志田未来)が、急激な経営状況の悪化に苦しむ企業から内定切りのターゲットにされる。しかし内定取消しは訴えられたら無効とされる恐れがある。そこで社労士の入知恵で厳しい内定者研修を課し、自主的に内定辞退させることにした。監督官の段田凛(竹内結子)はこれは違法な内定切りで解雇予告または予告手当支払いを定めた労働基準法に違反すると主張する ー というあらすじでした。

 

 見ていて少しわかりにくいというか、誤解がありそうな所があったので、僭越ながら補足的なことを書いてみたいと思います。

 

 

 

①内定辞退に追い込むことは「解雇」になるのか?

 採用内定を出したということは、企業とその内定者の間に、一定の解約権を留保した労働契約(解約権留保付労働契約)が締結されたと判例上考えられています。卒業できないとか、重大な嘘をついて採用されたなどのよっぽどの理由が無い限りは、企業は内定取消しが出来ません。訴えられたときに負けるリスクがあるという意味では、社員を「解雇」することと同様です。

 しかし「内定取消し」ではなく、「内定辞退をさせる」のはどうなのでしょう。それは社員に対する「解雇」と「退職勧奨」の関係に似ています。退職勧奨は解雇ではありません。企業は「辞めてくれないか」と言っているだけで、辞めるかどうかを決めるのも、退職の日を決めるのも労働者です。

と考えると、「内定辞退」をさせることは「解雇」には当たりません。

 

②「内定辞退」に追い込んだ人に、解雇予告または予告手当を支払う必要があるのか?

 「内定辞退」が解雇でないとなると、解雇予告または予告手当の支払いも不要となります。退職勧奨に対して解雇予告または予告手当が不要なのと同様です。

 ダンダリンで学生の真田さんが企業にされていたのは「内定取消し」でなく「内定辞退」なので、段田凛が「労働基準法に違反しています」と叫んでいたのは、恐らく真田さん(志田未来)のことではなく、その前に「内定取消し」を言い渡されていたという4人の学生のことだと思います。

 

③「内定取消し」には解雇予告または予告手当が必要なのか?

 じゃあその4人の学生のような「内定取消し」者に、本当に段田さんが言うような解雇予告や予告手当が必要かというと、そこもそうはいかないようです。

 内定取消しが解雇と同様と言ったのは、「取消しそのものの有効・無効」が争われたときの話です。

 「解雇予告・予告手当が必要かどうか」となると、実は見解が分かれています。これについてはっきりと考え方を示した判例が無いからです。

 実は行政(厚労省)は、指針を出しています。「事業主は、やむを得ない事情により、どうしても採用内定取消し又は入職時期繰下げを検討しなければならない場合には、(中略)解雇予告について定めた労働基準法第20条及び休業手当について定めた同法第26条等関係法令に抵触することの無いよう十分留意するものとする。」。

[新規学校卒業者の採用に関する指針]

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/jakunensha05/

 

 これもよく見ると「留意」を促しているだけであり、「抵触しています」と断言はしていないんですね。学者の見解でも、「試用期間中の労働者で、雇用後14日以内の者には解雇予告や予告手当は不要」と定めた労働基準法の定めを引き合いに、「既に入社した社員ですら解雇予告・予告手当が不要なのだから、まだ入社してない内定者には当然不要」と類推解釈する見解が多いのが事実です。

 ・・・となると、段田凛が4人の内定取消者について「解雇予告または予告手当が必要です!」と言い切ったのは、ちょっと微妙かな~ってところですね。

 

 


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