昨日のブログで全国転勤のことを書きましたが、同じ転勤の話題でカネカが育休明けの男性社員に転勤辞令を出し、それに妻が疑問の声をツイートしたことがニュースになっています。
こうした労使トラブルは、直接当事者の話を聞くことと、一方だけでなく双方の話を聞かないとなかなか真実は見えてこないというのが私の経験から来るものです。よって推測であまりコメント出来ないのですが、「社員本人に取材した」という記事と、カネカの公式発表の両方から出てくる事実を時系列で簡単にまとめると、以下のようになると思われます。
今年1月 子供が出生
3/25 夫が育休に入る
4/中旬 購入した住宅に引っ越し
4/22 夫が復職
4/23 会社が夫に対し関西への転勤を内示(5/16付)
4/26 夫が労働局に相談
5/7 退職願提出
5/31 退職
育児介護休業法26条では、就業場所の変更を伴う配置転換は子の養育や家族の介護の状況に配慮して行わなければならないという配慮義務を定めています。
正社員で転勤を伴う配置転換が無効となるのは、会社に不当な目的がある場合や従業員の不利益が大きすぎる場合です。
会社に不当な目的があったかどうかですが、会社の公式見解では「育休を取ったことに対する見せしめではない」とし、人事異動がたまたま育休明けのタイミングと重なっただけと主張しています。
不当な目的の有無というのは経営者側の「心の中」にあるので、なかなか立証出来ません。仮にあったとしても、それを示す「証拠」が無ければ労働者側は戦うことは難しいでしょう。
私も何年か前に、似たケースの相談を扱ったことがあります。元々勤務態度に問題があり、企業は退職勧奨をしようと考えていた。しかしその社員がたまたま妊娠し、引き続き育休に入ったので勧奨はせずに様子を見守っていた。その後育休明けから復帰したいという意思表示が出たので、電話で「実は元々辞めてもらおうと思ってまして…」と退職勧奨をしたというケースです。
会社としてはタイミングがたまたま育休と重なっただけだったのですが、労働者としたら「育休を取ったことへの見せしめだ」と思ってしまうのも仕方ないタイミングですね。
そういう意味でカネカのケースも、ちょっとタイミングが悪すぎたのではないかと思います。
このニュースで転勤の問題とは別に、「退職日」の問題で双方の主張が食い違っていることもわかってきました。
労働者側は「有休を消化した後の6月中旬~下旬くらいで退職したい」と申し出たが、会社から5月末にしてくれと言われたと主張しています。
しかし会社側は公式発表として「社員の方から5/31での退職届が出された」と言っています。
ここは双方の主張が対立しているのでどっちが真実なのかはわかりませんが、一般的には「退職日」というのは社員が指定するものです。
(会社が指定したらそれは「解雇」になります)
ですのでこの社員は、最初から自分で「6月〇日付で退職します」と日付をはっきり書いて退職届を出せば良かったのです。
有給消化も、退職日が決まっている場合は会社側の「時季変更権」が使えないので、労働者は有休を消化しきってから辞めることが出来ます。
労使トラブルは双方に法律の知識が乏しいことからこじれるケースが非常に多いです。
公正中立な第三者を間に入れて話し合う「あっせん」という制度もありますので、積極的に利用していくと良いと思います。