日大のアメフト問題で報道番組がほぼ占拠される中、政府が今国会の「最重要法案」と位置付ける「働き方改革関連法案」が、今日衆議院を通過する見通しとなりました。

 衆議院を通過すれば成立はほぼ間違いないと見られます。

 

 先日のブログで触れたとおり、働き方改革関連法案は大きく3つの柱から構成されています。

 1.労働時間の削減を目指す取組み

 2.高度プロフェッショナル制度

 3.同一労働同一賃金を目指す取組み

 

 このうち、同一労働同一賃金について少し触れておきます。

 

 同一労働同一賃金とは、簡単に言うと「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇格差をなくす取組み」ということです。日本では景気が良くなっているとはいえ、非正規雇用労働者の数は減らず、正規雇用労働者との「格差」はむしろ拡大している状況です。安倍内閣は「日本から非正規労働者という言葉をなくす」という意気込みでこの問題に取り組み、「1億人が総活躍できる社会」の実現を目指しています。

 

 実は、同一労働同一賃金を規定する法律は既に現在もあります。

 

パートタイム労働法第8条(短時間労働者の待遇の原則)

事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

パートタイム労働法第9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)

事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視す

べき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。

 

雇用契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

 パートタイム労働法では「正規雇用労働者と短時間労働者の均等待遇」を、労働契約法では「正規雇用労働者と有期雇用労働者の均衡待遇」を規定しています。

 

 既に現在も、これらの法律を根拠として待遇格差の是正を求める裁判がいくつも行われてきました。

 

 しかし現行法では「具体的にどのような場合は均等が取れていて、どのような場合に差別とされるのか」わかりにくいため、平成2812月には事例で示す「同一労働同一賃金ガイドライン案」が示されました。

 そしてこのガイドラインの「実効性」を確保し、より「具体的に」「実効的に」同一労働同一賃金を目指すのが今般の改正法になります。

 改正法の趣旨としては

 ① 労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定を整備する

 ② 労働者に対する待遇に関する説明義務を課す

 ③ 行政による助言・指導・勧告、裁判外紛争解決手続の整備

 

 新しい法律名は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」で、労働契約法の中から有期雇用労働者に関する条文を引っ張り出して来てパートタイム労働法と合体させています。今後、非正規労働者が事業主に均等待遇を求める場合は、この法律を根拠とすることになります。

 

 例えば正社員には通勤手当を支給し、パートタイマーには支給していないとします。

これまでは「正社員とパートタイマーは仕事に対する責任の範囲が違うから」ということで、仕事の内容の違いを合理的に説明出来れば、法律上は通勤手当の計算方法に差をつけることが可能でした。新法案では「待遇のそれぞれにおいて、当該待遇の性質および当該待遇を行う目的に照らして」その違いが適切かどうかとされるので、通勤手当というものの性質・目的(=通勤に対する補助)を考えると、正社員とパートタイマーに差をつけるのは不合理だとされることになります。

「基本給、賞与、その他の待遇それぞれ」について、判断するということでより細かく具体的にみられることになります。

 

 またその雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、待遇の格差の合理的理由を説明する義務が事業主に課され、必要あるときは行政が事業主に報告を求め、助言・指導・勧告をされます。待遇差の是正を労働者が求める場合も、裁判でなくADRを使いやすくするような整備もなされるので、裁判には二の足を踏む層がある意味「気軽に」差額の支払いを求めて争いを起こしてくることが予想されます。

 

 同一労働同一賃金が進むことで最も懸念されるのは、企業の人件費総額の上昇です。非正規雇用労働者の賃上げをすることで正規雇用労働者に合わせることで企業の負担が増すことは避けられません。先月、日本郵政が「正規労働者の賃金を下げることで」非正規雇用労働者との差を埋めようとしていることが報道され話題になりましたが、「不利益変更禁止の原則」もあるのでそう簡単な話ではありません。

 

 もっとも、「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇格差」の是正が禁止されるだけですので、個々の労働者ごとの「成果や能力」の違いにより給与に差を付けるのはもちろん構いません。ただし「成果や能力」の違いが目に見える形で説明出来ないと、労働者本人を納得させることは難しいでしょう。人件費の上昇が企業経営を圧迫するのを防ぐには、小規模企業にも評価制度の導入が避けられないと思います。複雑なものでなくても良いのです。全ての従業員に目に見える「評価制度」を実施し、「正規労働者と非正規労働者」という差ではなく、「1人1人に」違いをつけて給与に差を設けていくことでしか、総額人件費の圧迫を防ぐことは出来ないと言って良いでしょう。

 


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