本日、ネットニュースで「退職代行バブル崩壊、撤退相次ぐ」という記事が出ていました。
帝国データバンクの調査によると、約4社に1社の事業者がサービス停止の可能性があるとのこと。
私は今から1年半ほど前の2025年6月に、このブログで「退職代行ビジネスは今がピークで、今後は衰退するだろう」という予測を書いていました。
退職代行ビジネスは今後も拡大するのか – 社会保険労務士法人 熊谷綜合労務事務所
当時はまだ退職代行が全盛期で、「今後も市場は拡大する」という見方が強かった時期です。なぜ私が逆の予測を立てたのか、そして今、なぜその予測が現実のものとなったのか。今日はその「答え合わせ」をしてみたいと思います。
1年半前に予測していた「衰退の理由」
当時のブログで私が挙げた衰退の理由は、極めてシンプルです。 それは、退職代行が「情報弱者(情弱)ビジネス」という側面を持っていたからです。
本来、日本の法律(民法627条)では、労働者が退職の意思を伝えれば、会社の同意がなくても2週間後には自動的に雇用契約が終了します。極論を言えば、退職届を「郵送(内容証明など)」で送り、意思を「到達」させれば、それだけで法的には退職が成立するのです。
退職代行業者が数万円を受け取って行っていることの多くは、この「通知の代行」に過ぎません。この「自分でできる」という事実が広まれば、高額な費用を払う人は減っていく…。それが私の予測の根拠でした。
AIの進化が「情弱」を救い、バブルを弾かせた
今日のニュース記事では、バブル崩壊の理由として「ハラスメント対策の進展」や「転職市場の冷え込み」が挙げられていました。もちろん、それらも大きな要因でしょう。
しかし、私がもう一つ決定的な要因だと考えているのが、「生成AIの急速な普及」です。
ここ1年ほどで、誰もが手軽にAIを使えるようになりました。 かつては「会社が辞めさせてくれない、どうしよう」と悩んだ人がネット検索をしても、広告費を投じた退職代行業者のサイトばかりが上位に表示されていました。
しかし今は、AIにこう聞くだけで答えが返ってきます。 「会社を辞めたいけれど引き止められています。法的にどうすれば自分一人でお金をかけずに辞められますか?」
AIは即座に、民法の規定や、退職届のテンプレート、内容証明の送り方まで丁寧に教えてくれます。AIという「最強の相談相手」が無料で手に入るようになったことで、かつての「情弱層」が、自ら情報を武器にする「強者」へと変わったのです。
「セーフティネット」としての役割へ
もちろん、退職代行というサービスが完全に消えることはないでしょう。 ニュース記事にもある通り、深刻なハラスメントに悩み、一歩も動けなくなってしまった方にとって、代行サービスは重要な「セーフティネット」です。
しかし、「本来使わなくてもいい人」までがブームに乗って利用していた時期は終わりました。情報の格差を利用して利益を上げるビジネスモデルは、AI時代の到来とともに、その役割を終えようとしています。
経営者・マネジャーが考えるべきこと
退職代行が減ったからといって、職場環境が良くなったとは限りません。 AIで武装した部下は、代行業者を使わずとも、法的な根拠を持って淡々と、そして突然に去っていくようになります。
大切なのは、部下が「AIに相談して辞め方を探す」前に、上司に「辞めたい」と本音を言える信頼関係を築けているかどうか。
バブルが崩壊した今だからこそ、私たちは改めて、小手先の対策ではない「人と人とのコミュニケーション」という本質に立ち返る必要があるのではないでしょうか。


