最近、俳優の佐藤二朗さんと橋本愛さんのハラスメント問題が大きく報道されています。
報道内容や世論を見ると、「それはハラスメントではないのでは?」という意見が多いようですが、フジテレビ側は楽屋に訪問して「俳優を続けるべきでない」と言ったことをハラスメントとして問題視しているようです。
実は、この問題は企業でも日常的に起こっています。例えば、
「この仕事は本人に向いていないのではないか」
「別の部署の方が能力を発揮できるのではないか」
「他の仕事の方が本人も幸せなのではないか」
そんな思いから、社長や上司が本人に助言をすることがあります。
しかし、その言葉が後になって、
「退職を迫られた」
「人格を否定された」
「ハラスメントを受けた」
と受け取られるケースも少なくありません。
では、どこからがハラスメントなのでしょうか?
パワハラの法律上の定義
労働施策総合推進法では、パワーハラスメントを次のように定義しています。
「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」
ポイントは「相手が嫌な思いをしたら全てハラスメントではない」ということです。
会社には社員を指導する権限があります。
業務上必要な指導であれば、時には厳しい内容になることもあるでしょう。
問題になるのは「業務上必要な範囲を超えているかどうか」です。
「向いていない」は危険な言葉
例えば、「今のままでは求められる水準に達していない」「この部分を改善してほしい」「次回までにここを修正してほしい」という指導は、業務に関する指摘です。
一方で、「君はこの仕事に向いていない」「社会人として失格だ」「会社にいる意味がない」「どうせ何をやっても駄目だ」といった発言は、仕事の話ではなく人格評価になっています。
特に、「向いていない」という言葉は、言った側は仕事との適性の話をしているつもりでも、受け取る側は「あなたは不要だ」と言われたように感じることがあります。
そのため、能力や適性について話をする場合は、「何が不足しているのか」「どのように改善するのか」という具体的な行動や事実に焦点を当てることが重要になります。
「辞めた方がいい」は退職勧奨と受け取られることも
社長の中には、本人のためを思って言ったというケースもあります。
しかし、「他の仕事の方が向いているんじゃないか」「辞めた方がいいんじゃないか」という発言は、本人によっては退職勧奨と受け取られる可能性があります。
もちろん、退職勧奨そのものが違法というわけではありません。
しかし、繰り返し行われたり、心理的な圧力を加えたりすると問題になります。
本人の将来を考えて助言する場合であっても、まずは改善の機会を与え、十分な対話を重ねることが重要です。
密室での指導は危険
社長の中には、他の社員に聞かれないよう配慮して二人きりで話したという方もいます。
もちろん配慮自体は大切です。しかし最近は、後から「そんなことは言われていない」「そんな意味ではなかった」という話になるケースも増えています。
二人しかいなかった場合、第三者がいません。つまり後日トラブルになったときに証明が難しくなるのです。
重要な面談や指導を行う場合は、管理職を同席させる、会議室のガラス越しに周囲から見える場所で行う、面談記録を残す、終了後にメールで内容を確認するといった工夫も有効です。
証拠を残すためではなく後日の誤解を防ぐためと考えると良いでしょう。
人前で叱るのはさらに危険
逆に大勢の前で叱責することもリスクがあります。
例えば、朝礼で名指しで叱る、会議中に長時間責める、他の社員の前で繰り返し注意するといった行為は、本人の名誉感情を傷つける可能性があります。
厚生労働省も、「必要以上に大勢の前で叱責すること」をパワハラの例として挙げています。
指導は本人に伝わることが目的です。
見せしめにすることが目的になってはいけません。
社長が意識すべき3つのポイント
社員を指導するときは、次の3点を意識するとトラブルを防ぎやすくなります。
① 人格ではなく行動を指摘する
×「君はダメだ」
○「この業務の進め方に問題がある」
② 感情ではなく事実を話す
×「やる気がないだろう」
○「期限に遅れた案件が3件ある」
③ 改善策まで一緒に考える
×「もっと頑張れ」
○「次回からはこういう方法で進めよう」
最後に
近年は、ハラスメントに対する社会の目が厳しくなっています。
しかし、何も言わないことが正解ではありません。
会社には社員を育成する責任があります。
大切なのは、厳しいことを言うかどうかではなく、どのように伝えるかです。
人格を否定せず、事実に基づき、改善に向けて対話を重ねる。
その姿勢こそが、ハラスメントを防ぎながら社員を育てるための第一歩ではないでしょうか。


