ここ最近「解雇特区」の議論が新聞紙上を賑わせていますね。
解雇特区とは、正確には「国家戦略特区」。詳しい説明は他のニュース等に譲りますが、主に東京・大阪・愛知の大都市圏を想定し、
(1)入社時に結んだ条件に沿えば解雇できる
(2)有期契約で5年超働いても、無期契約になれるルールを適用しなくていい
(3)一定の年収があれば労働時間を規制しない
の3点。働き手を守る労働基準法や労働契約法に特例を認めるものです。
ただし開業後5年以内の企業の事業所や外国人労働者の比率が3割以上の事業所などの条件があったり、最近の報道では(3)は見送る、対象労働者は弁護士ら専門職と院卒者のみに限るなど、どんどん議論が変わってきています。
政府は秋の臨時国会に法案提出を狙っていますがどうなるのでしょう。
そもそも、このいわゆる「解雇特区」は何のために作るのでしょう?
これは安倍政権が掲げる「成長戦略」で、規制緩和の一つ。労働法という「規制」を緩和し、解雇しやすくすることで、新規起業や外資企業が集まりやすくなり、雇用も増え、経済が活性化するということ。
つまり、前提として、今の法律では「解雇しにくい」から人を雇えない。解雇しやすくすれば、思い切って会社作ったり人を雇ったり出来るよね! ということ。
でもここで一つの疑問が…。今の世の中は、本当に「解雇しにくい」のでしょうか?
労働契約法によると、社員を解雇するには「社会通念上相当であり、客観的に合理的な理由が必要」とのこと。どうしてもやむを得ない理由があり、ちゃんとした手順を踏まないと無効になりますということです。
そうか、やっぱり簡単にはクビに出来ないんだな…と思えますが、実際に無効かどうか判断するのは「裁判所」になります。
つまり、労働者は裁判を起こさないと解雇の無効を争えないのです。
実際、裁判を起こせる労働者がどれだけいるでしょう?裁判となると弁護士さんへ着手金を払い、時間も少なくとも半年、1年とかかります。実際はクビにされても諦めて受け入れてしまうケースがほとんどでしょう。
また、裁判を起こし無効を認められたとしても、法廷で争った会社に戻るのは非常に気まずいです。結局数カ月程度の和解金をもらって退職、というケースが圧倒的なのです。それは裁判外の、労働審判やADR、示談交渉などを選んだ場合でも同じです。
すなわち今の世の中は、それほど解雇しにくい世の中じゃないと思います。実際労働相談を受けていても、解雇というのは非常に多い実感があります。
もっとも大企業でしたら、裁判を恐れて解雇を躊躇することも考えられます。大企業には、この特区というのは効果があるかもしれません。
しかし日本の会社のうち大企業は、会社数で0.3%、労働者数で3割程度だと言われています。その3割のうち、特区の中で働く人…となると、せいぜい1割くらいになるのではないでしょうか。
その1割の人のために、わざわざ「解雇特区」なるものを作る必要があるのでしょうか?
しかも最近の報道では対象者をさらに絞り、弁護士等の専門職と院卒者に限るとのこと。これでは全体の労働者数のうち、0コンマ数%ほどしか対象にならないでしょう。
ここまで絞るなら、もうやる意味がないと思います。「経済を成長させる」という目的達成のための、手段として解雇特区は意味をなさないと思います。
労働者の基本的人権を侵すという、失うものの大きさを考えれば、効果が限定的になること間違いなしの特区はもうやらない方が良いでしょう。


