先日、解雇の金銭解決制度法案を議論する厚生労働省の検討会が開かれたとのニュースがありました。

 この法案、議論は継続して続いていたのかもしれませんが、一国民からすると現れては消え、また亡霊のように現れては消えを繰り返している印象なので、ホワイトカラーエグゼンプションと並んで「二大亡霊法案」と呼ばれています(私が勝手に呼んでいます)。
 今回またニュースになったので、ブログで取り上げてみようと情報を調べてみましたが、厚労省で今どのような議論になっていて、またどんな制度にしようとしているのか、情報が少なくてよくわからない状態です。上から降りてくる情報が少ないせいか、論じている専門家の方も少ない印象です。
 しかし導入されれば国民生活に大きな影響を及ぼす重要な法案ですので、少し取り上げてみたいと思います。

1.議論が起こったきっかけ
 そもそも解雇金銭解決制度の議論が起こったきっかけは、厳格な解雇規制を緩和することで企業の経営の自由度が増し経済を活性化させることが出来るからという経営側の要望のようです。例えば新規事業を立ち上げる時、もし失敗したらいくら払えば労働者を解雇出来るんだとわかっていれば、リスクを踏まえた上で立ち上げることが出来るので立ち上げやすくなり、チャレンジする土壌が出来るという訳です。
 労働者にとってもメリットがあります。従来解雇の無効を裁判所で争い無効となった場合、信頼関係は破綻しているため現実的に現場復帰は難しく、一定の和解金をもらって解決するケースが多いです。あらかじめ補償金をもらえれば、わざわざ裁判を経る手間が省けます。また、金銭的に裁判を起こすことが困難な労働者にとっては泣き寝入りするしかなかったので、補償金が自動的に入る仕組みはメリットでしかありません。

2.主な論点
 解雇金銭解決制度の報道を見ると、大きな論点は次の2つのようです。
①企業からの申立てを認めるか
②補償金をいくらくらいにするか

 「①企業からの申立てを認めるか」はとても重要なポイントです。もしこれを認めず、労働者からの申立てだけにするなら、労働者にとっては「金銭解決か裁判か」との選択肢が増えるのでメリットがありますが、企業にとっては労働者に裁判を起こされるリスクが引き続き残るので、そもそも解雇金銭解決制度の議論を立ち上げた意味が根本から無くなってしまいます。それだとこの制度を導入する理由がもはや無いので、企業からの申立ては認めるという前提で議論を進めるべきでしょう。
 企業からの申立てを認めることには「カネさえ払えば自由に解雇出来てしまう」と労働者側からの反発があります。解雇の乱発を防ぐには、論点の②である補償金を高額に設定すれば良いでしょう。そう簡単には解雇出来ない程の額に設定すれば、いいかげんな理由をつけての不当な金銭解雇は事実上防ぐことが出来ます。

 先に労働者からの申立てだけを認めて法案を成立させようとの意見もあるようですが、労働者側は「ゆくゆく企業からの申立ても認めるようにするのではないか」と懸念しているようですし、政府や厚労省も後出しジャンケンのように後から企業の申立てを持ち出すようなことはせずに、最初から法案の完成形を示して議論すべきです。企業の解雇がしやすくなって経営がしやすくなることは、雇用市場全体で見れば雇用が増えるという労働者にとってのメリットもあるはずなので、そのメリットを示して正々堂々と議論すべきです。

 お金を払えば解雇出来るようになったとしても、そんなに解雇が急増するとは思えません。お金を払うことは企業にとっても大きなリスクですし、仮に意味のない解雇を乱発するような会社があれば、その横暴ぶりはネットで晒され、求職者が応募しなくなるでしょう。既に企業にとっては人手不足の時代に入っていますし、ネットでの評判は経営を左右するほどです。労働者から選ばれない会社は淘汰されていくだけです。

 また労働者側の意見として、「今ある労働審判やあっせんなどの制度を充実させていけば足りるのでわざわざ新しい制度を作る意味がない」というのがありましたが、具体的にどう充実させていくのかの案が見当たりませんでした。確かに、裁判と労働審判はほぼ弁護士さんに依頼しなければ利用出来ませんし、あっせんは一人で出来るが参加に強制力が無いなど、どれも不便があり、労働者に泣き寝入りをさせている原因になっています。これらの制度が労使にとって使いやすい制度になれば新法を作る必要は無いので、対案が示されることを期待します。

 という訳で私は現時点では金銭解決制度に大筋賛成なのですが、重要な法案ですので、厚労省はもっと論点を明確にして、密室で進めるのではなく我々国民を巻き込んだ議論が出来るようにして頂きたいと思います。

 

 

※この投稿はMIRAI相互創造推進協会のブログに掲載させて頂いたものです。


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